Web制作で失敗しない「要件定義」の進め方と3つの罠

Web制作

Webサイト制作プロジェクトにおいて、「こんなはずじゃなかった…」という失敗のほとんどは、プロジェクトの最上流である「要件定義」の失敗に起因します。

  • 「作ったはいいが、誰も使えない機能が満載」
  • 「開発終盤で『あれも必要だった』と追加要望が噴出する」
  • 「見積もりと工数が膨れ上がり、予算が破綻する」

私自身、システムエンジニアであると同時に、Web制作会社で1,000件以上の案件ディレクターを経験してきました。その経験から断言できるのは、成功するプロジェクトは、要件定義が優れているという事実です。

この記事では、Webサイト制作を発注する側も、受注する側も知っておくべき、失敗を防ぐための実践的な要件定義の進め方と、陥りがちな「罠」について解説します。

要件定義とは? 「要求」と「要件」の違い

まず、最も重要な違いを理解する必要があります。

  • 要求(やりたいこと): お客様の「夢」や「願望」です。「売上を2倍にしたい」「かっこいいデザインにしてほしい」といった、ふんわりとした目標を指します。
  • 要件(やるべきこと): その「夢」を実現するために、Webサイトが**具体的に何を(機能)、どのように(非機能)**備えるべきかを定義したものです。「売上2倍のため、カートシステムを導入し、会員ランク別クーポンを発行できるようにする」といった具体的な仕様を指します。

Webディレクターの仕事は、お客様の「要求」をヒアリングし、それを具体的な「要件」に落とし込み、合意することです。

失敗しない要件定義の進め方 3ステップ

Step 1: 「Must(必須)」と「Want(要望)」を仕分ける

ヒアリングで出てきた「要求」を、以下の2つに徹底的に仕分けます。

  • Must(必須要件): これがなければプロジェクトが成立しない、絶対に実現すべきこと。(例:商品をカートに入れて決済できること)
  • Want(要望要件): あれば嬉しいが、無くても運用は開始できること。(例:お気に入り機能、ポイントシステム)

多くのプロジェクトは、全ての「Want」を詰め込もうとして予算とスケジュールが破綻します。まずは「Must」だけで最小限(MVP:Minimum Viable Product)のスタートを切り、公開後に「Want」を追加していくフェーズ分けを提案することが、現実的な成功への近道です。

Step 2: 「機能要件」と「非機能要件」を洗い出す

「何を」作るかだけでなく、「どのように」動くかも定義します。

  • 機能要件(目に見える機能):
    • 例:お問い合わせフォーム、ブログ投稿機能、会員登録・ログイン機能、決済機能など。
  • 非機能要件(目に見えない品質):
    • 例:セキュリティ:(常時SSL化、管理者権限の分離)
    • 例:パフォーマンス:(ページ表示速度が3秒以内であること)
    • 例:運用・保守:(ブログの更新はクライアント自身が行えること)
    • 例:利用者のITリテラシー:(PCが苦手な人でもスマホで簡単に更新できる管理画面にする)

特に「非機能要件」は見落とされがちですが、サイトの品質や運用コストに直結するため、非常に重要です。

Step 3: 「やらないこと」を明確に定義する

要件定義書には、「やること」だけでなく**「やらないこと(対象外スコープ)」**を明記することが、お互いを守るために不可欠です。

  • 例:「レスポンシブ対応は含むが、ガラケー(フィーチャーフォン)対応は含まない」
  • 例:「ブログ機能は実装するが、過去サイトからの記事データ移行は対象外とする」
  • 例:「ロゴデータはクライアントから支給されるものとし、ロゴ制作は含まない」

これを事前に合意しておくことで、開発終盤での「これもやってくれると思った」というスコープのズレを防ぐことができます。

陥りがちな3つの罠と、その対策

罠1: 「担当者のITリテラシー」を見誤る罠

  • 罠: 発注側の担当者がシステムに詳しい場合、現場の運用担当者(例:PCが苦手な事務員)のスキルを無視した「高機能すぎるシステム」を定義してしまうことがあります。
  • 対策: 「誰が(Who)」そのシステムを「どのように(How)」使うのかを徹底的にヒアリングします。デモ画面(プロトタイプ)を作成し、実際に使う人に触ってもらいながらフィードバックを得ることが最強の対策です。

罠2: 「とりあえず全部盛り」の罠

  • 罠: 「せっかくだから」と、使うかどうかわからない機能(ポイント機能、複雑な検索機能など)を最初から全て実装しようとして、予算と開発期間を浪費してしまう。
  • 対策: Step 1の「Must/Want仕分け」を徹底します。プロジェクトの真の目的(例:まずは問い合わせを増やすこと)に立ち返り、「Want」機能は公開後のフェーズ2で検討することを提案します。

罠3: 「議事録・合意」を怠る罠

  • 罠: 打ち合わせで「いい感じですね」と口頭で盛り上がっただけで、具体的な仕様書や議事録を残さない。後で「言った」「言わない」の水掛け論になる。
  • 対策: 打ち合わせの決定事項は必ず議事録に残し、関係者全員にメールで共有します。最終的な要件定義書は、必ず両者が「合意した証拠(押印や合意メール)」を残してから開発に着手します。

(まとめ) Web制作における要件定義は、家を建てる際の「設計図」です。設計図が曖昧なまま着工すれば、欠陥住宅ができてしまうのは当然です。

優れたWebディレクターは、お客様の「夢」に共感しつつも、それを実現可能な「設計図」に冷静に落とし込む能力を持っています。

この記事が、あなたのWeb制作プロジェクトを成功に導く「ヒント」になれば幸いです。

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